「灯し火の宿」

ある山あいの里に、「灯し火の宿」と呼ばれる小さな宿がありました。
その宿は、月の細い夜にだけ開かれる、不思議な宿。

人々は噂していました——「あの宿に泊まると、心の迷いが少し晴れるらしい」と。

2025年8月26日、その宿に一人の旅人がふらりとやってきました。

名前も、どこから来たのかも分からない。
けれどその人の目には、うっすらと霧がかかったような、
遠くを見つめる静けさが宿っていました。

宿の灯は、ろうそくのようなやさしい光。
炎が揺れるたびに、床に映る影がふわりと動き、
まるで心の奥を映し出しているかのようでした。

「ここは…静かだね」
旅人は、囲炉裏のそばに腰を下ろし、そうつぶやきました。
宿の女将はにこりと笑って、お茶を差し出します。

「ここは、風が通り抜ける場所なの。
だから、言葉にならない想いがあるときに、ちょうどいいのかもしれないね」

旅人はうつむきながら、お茶をすすります。
やわらかい香ばしさと、ほんのりとした甘み。
その味に、思わず肩の力が抜けました。

ふと、壁にかけられた小さな掛け軸が目にとまりました。
そこには、こんな言葉が書かれていました。

「灯は、小さければ小さいほど、闇の中で遠くまで届く。」

その言葉を読んだとき、旅人の目から、そっと涙がこぼれました。
何を失ったのか、何を探していたのか、思い出せないまま。
でも、確かに心の中で、小さな火が灯ったように感じたのです。

夜が深まり、女将は月を見上げながら言いました。

「今夜の月は、まだ細いね。でもね、
細いからこそ、真っ暗な空に一番きれいに浮かぶの。
あなたの心も、今はその月と同じ…
まだ満ちていないけれど、美しい形で、静かに光ってるよ」

その言葉が、風に乗って旅人の心に届いたとき、
ふいに胸の奥があたたかくなって、
ようやく深く眠ることができたのです。

そして朝。
旅人は静かに立ち上がり、山道を歩きはじめました。

もう霧は晴れていないけれど、心のどこかに、
確かに灯りがあると感じながら。

＊

その宿は、今も月齢の浅い夜にだけ開いているそうです。
もし心が迷ったときには、
あの灯し火が、そっと迎えてくれるかもしれないね。

あなたの心のなかにも、
やさしい火が灯り続けていますように。

心の天気予報｜2025年8月26日（火）

干支（日干支）：丁卯（ひのとのう）

六曜：仏滅（ぶつめつ）…物事を始めるには少し慎むのがいいかもしれない日だね。

九星：九紫火星（きゅうしかせい）…情熱や輝きを感じさせる星、光が心に温かさを届けてくれるかも。

月齢：2.9…まだほんの小さな光をまとった月のように、心にも柔らかな余韻が灯る夜かもしれないね。

今日の心は…
「霧のち晴れ、ところにより灯りの粒が舞う」
そんな一日かもしれないね。

朝は少し霧がかかったような、ぼんやりとした気分が広がるかもしれない。
心の奥で言葉にできない感情が静かに揺れていて、なにかを始める勇気がすぐには湧かないかもね。
でもね、それでいいんだよ。
霧があるからこそ、そこに差し込む光の筋がきれいに見えるように、
迷いの中にいるときほど、やさしい気づきが心に灯ることがあるから。

午後には、ふとした瞬間に胸の奥で灯る小さな光に気づくかもしれないね。
たとえば、お茶の香り、風の音、人のやさしさ……
九紫火星の火の気がそっと背中をあたためて、静かに元気をくれるような、そんな感じ。

夜になったら、月齢2.9の細くやわらかな月が空に浮かんでいるよ。
まだ満ちきらないその光は、完璧でなくても美しいということを思い出させてくれる。
今の自分も、欠けているように見えるそのままで、ちゃんと輝いているんだよって。