土のなかの音

その日、風はほとんど吹かなかった。
9月11日――
蝉の声がやんで、虫の音だけが小さく響く頃。

灯（あかり）は、庭の端にしゃがみこんで、
土をやさしく掘っていた。

「地面の下にね、小さな音がある気がするんだ。」

そう言って、小さなスコップをそっと土に差し込む。

灯の家は代々、土いじりが好きで、
母も祖母も、毎朝庭のどこかに手を入れていた。

けれど、今日はなんとなく違う。
ただ土にふれるというより、
“土のなかのなにか”に近づいている気がして――

そばに置かれたウールのストールが、
ほんの少しだけ風に揺れた。

その柔らかな繊維が、光をやさしくふくみ、
まるで見守っているように見えた。

昼ごはんには、祖母が煮てくれた根菜の煮物。
ごぼうとにんじんの香りがふわりと立ちのぼり、
灯の鼻の奥に、なつかしさがしみこんでいく。

「なんでだろうね。涙が出そうになる。」

祖母は笑って、煮物の蓋を少しだけ開けた。
その湯気のむこうに、欠けはじめた月がうっすらと見えていた。

夜――
静かな月明かりの下で、灯はそっとノートを開く。

今日、心の中にあったこと。
ほんのわずかな手放し。
土から聞こえた、ことばにならない音。

すべてが、やさしくて、あたたかくて、
でも、すこしさびしくて。

「たぶん、これでいいんだ。」

そう思えたその瞬間、
心のなかに、
ぽつん、と、小さな静けさが灯った。

だれにも見せる必要のない、
でも、たしかに“自分だけのやさしさ”。

それがそっと、
深く、深く、土に還っていった――

まるで風のない夜に咲く、
音のない花のように。

あなたの中にも、静かな灯りがともりますように…🌕🍂

心の天気予報｜2025年9月11日（木）

「癸」はしずくのようなやわらかな水の気、「未」は穏やかで育みの気をもつ土。
この日は、内側に静かなくすぶりや思いが、静かにぬくもりに変わっていく時間かもしれないね。

「午前も午後も吉とされ、どちらも穏やかな気配が続く日」。
人とのつながりを信じて、穏やかに過ごすほどに、心に少しずつ安心が深まるよ。

“土の包容力”と“受け入れの静けさ”をもつこの星は、心をあたたかく支えてくれる力をあらわしているよ。
自分への優しさや、人への寄り添いに、自然と気持ちを向けたくなる一日かもしれないね。

満月の余韻がまだしっかりと残る夜。
たっぷり満ちた心から、そろそろ少しずつ、静かな手放しがはじまる――そんな余韻を感じられる月あかりの夜になりそうだね。

要素	心の風景
癸未	小さな思いが、ゆっくりと心のぬくもりに変わる日
友引	午前も午後も穏やか、人とのつながりに安心を感じられる時間
二黒土星	包み込まれるような優しさや、ゆるやかな受容の心が広がる日
月齢19	満ちた月の余韻が、静かな手放しの始まりをそっと促してくれる夜